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広島地方裁判所 昭和35年(わ)499号 判決

被告人 羽山富雄

昭五・四・二五生 人夫

藤本清一

昭三・一〇・二五生 人夫

主文

被告人羽山富雄を死刑に処する。

被告人藤本清一を無期懲役に処する。

訴訟費用中、証人藤井修・諫早キミ子に支給した分は被告人藤本清一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人羽山富雄は、肩書本籍地に生まれ、同地の小学校高等科を卒業後、人夫・バスの車掌・農夫などを転々としていたが、昭和二八年七月、隣り部落の石井磯吉の長女富士子と結婚して石井姓を名のり、同家に居住して家業の炭焼きや農耕に従事するようになり、その間に長女初枝・次女久美子の二子をもうけたが、仕事が嫌いな上、金使いが荒く、派出な買物や競艇・パチンコ等にふけり、七万円余りの負債を生じ、その返済に窮したため、同家に居辛らくなつて、ついに昭和三二年九月頃、妻子と負債を残したまゝ無断家出して大阪市へ赴いたが、同年一二月より郷里に近い広島県大竹市栄町の土建下請業宮本組稲穂飯場の人夫となり、その後も一時大阪へ行つたことがあつたが、翌三三年六月頃、再び同飯場に戻つて人夫として稼働していたものである。

被告人藤本清一は、肩書本籍地の極貧の農家に生まれ、同地の小学校を卒えて土方等をしていたが、昭和二二年頃より同地の石岡製材所の製材工となり、その後、藤井安子と結婚して一子をもうけたが、過度の飲酒癖により、妻に逃げられ、さらに昭和三二年一〇月には同製材所を解雇されるに至つたので、それからは土工となり、転々していたが、昭和三三年八月中旬から前記稲穂飯場の人夫となつて稼働していたものである。

被告人両名は、右のように同一の飯場で働くようになり、かつ起居も共にするようになつて互に知り合う仲となつたものであるが、

第一、被告人羽山は、右稼働中、早く郷里の妻子の許に帰つて落着きたいと思つていたが、そのためには先ず前記負債を仕末しなければならなかつたところから、その返済資金の入手に腐心していたところ、かねて右飯場の人夫として稼働していた児玉仲次郎(当時六七才)から、同人が老後の生活のために木炭商を営みたい希望を有しており、郷里の方面から大量の木炭買付の斡旋方を依頼されていたことから、これに乗じ、同人を欺して大金を持ち出させ、途中においてこれを奪い取ろうと考え、昭和三三年一〇月初旬頃、右児玉に対し、郷里の姉婿が木炭を世話してやるといつて来た、自分が案内するから一緒に買いに行こう、と言葉巧みに誘いかけ、且つ偽の手紙(証第五号)と木炭の単価表を勝手に書いたものを同人に渡してその代金約八万円を用意持参するよう仕向け、なお、同月一〇日午後五時頃、大竹発の石見急行バスで一緒に行くことなどを約したが、右所持金を奪い取るには途中の山中において同人を殺害してこれを強奪するより外なく、そのためには、日頃小遣銭に窮しており且つ腕力の強い被告人藤本を仲間に誘い入れるにしくはないと考え、同月一〇日朝、同被告人と共に広島市役所前の血液銀行に赴いた際、同銀行附近において同被告人に対し右計画を打明け、強奪金は山分けにすることを約束して誘つたところ、同被告人も即座にこれを応諾したので、更にその実行の場所等の打合せを行い、茲に被告人両名は児玉を殺害してその所持金を強取することの共謀を遂げるに至つた。かくして被告人羽山は、かねて約束したとおり児玉を連れて同日午後五時頃、大竹市栄町停留所から益田行の石見急行バスに乗り込み、被告人藤本も児玉にさとられないように秘かに右バスの後部に乗り込み、途中出合停留所で広瀬行の国鉄バスに乗り換え、同日午後七時半頃、山口県玖珂郡錦町大字広瀬に至り、被告人羽山は児玉と共に国鉄バス広瀬駅で、被告人藤本はその一つ先の桜木駅で別々に下車したが、犯行時刻には未だ早かつたので約三〇分位附近で暇つぶしをし、午後八時過頃、被告人羽山は児玉を伴つて久保県道を須金方面へ向け歩行し出し、被告人藤本は広瀬市内で入手した長さ約九〇糎・太さ約四・五糎平方の杉の角棒(証第三号)を携えて右両名を尾行し、約一・三粁位西進した左方は山の断崖が聳え立ち、右方は錦川上流の峡谷となつている昼なお暗い淋しい個所に差しかゝるや、かねて打合わせた合図に従い、被告人藤本はその背後から突如前記角棒を振つて児玉の頭部をめがけて一撃したところ驚いた児玉は「石井、助けてくれ」と叫んで被告人羽山にすがりついたが、続いて被告人藤本は第二、第三撃を加えたところ、第三撃のとき角棒がまつ二つに折れたので更に被告人両名は各その片方ずつを取つて児玉の頭部をそれぞれ乱打し、同人が血まみれになつて山側の小溝の中にうつ伏すや、被告人羽山はこれに飛びかゝつて所携のハンカチ(証第一号)で児玉の頸部を締め付け、更に被告人藤本は自己の褌(証第二号)を解いて同様その頸部に巻き付け、その両端を被告人両名で引張つて締め付け、よつてその場に同人を窒息させて殺害した上、同人の着用していた腹巻の中から現金八万九百円位を強奪し

第二、右犯行直後、その犯跡を隠蔽するため、被告人両名は共同して児玉の死体よりその着衣等を剥ぎ取つた上、これを右殺害場所附近の崖下である錦川上流の草木の密生しているくさむらの中に投げ棄て、以て遺棄し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人両名の判示第一の所為は刑法第二四〇条後段・第六〇条に、判示第二の所為は同法第一九〇条・第六〇条に各該当し、各罪はそれぞれ同法第四五条前段の併合罪である。よつて情状を検討するに、本件は初めから計画された兇悪且つ惨虐極まる犯行であつて天人共に許さないところであり、殊に被告人羽山は右犯行の主謀者としてその責任は極めて重大であるといわねばならない。被告人藤本は犯行の計画に初めから参画したものではないといえ、被告人羽山からその計画を打明けられるや即座にこれを応諾しその実行につき重大な役割を演じたものであつて、このことは同被告人の兇暴性・惨虐性を如実に物語るものというべく、これまた何等酌量すべき余地は存しない。ただ被告人藤本は被告人羽山に較べるときは、強奪金は平等に山分けしたとはいえ被告人羽山の計画に加担したものであり、なお被告人羽山は犯行を自白しながらも、ともすれば被告人藤本との間及びその他の犯情の点において自己を有利に導こうとする口吻を示すのに対し、被告人藤本は犯行の一切を卒直に告白しているなどの点を考慮するときは、必ずしも両被告人を同一に論じ難い点もなしとしない。その他被告人らの各年令・経歴・性行・環境・本件犯行の被害者並びに一般社会に及ぼした影響等各般の事情を勘案した上、被告人羽山については、第一の強盗殺人の罪につき所定刑中死刑を選択し、同法第四六条第一項に従つて他の刑を科さず同被告人を死刑に処することとし、又、被告人藤本については、第一の強盗殺人の罪につき所定刑中無期懲役を選択し、同法第四六条第二項に従い他の刑を科さず同被告人を無期懲役に処し、なお訴訟費用中被告人藤本に関し生じた証人藤井修・諫早キミ子に支給した分は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り被告人藤本の負担とし、その余の被告人羽山に関し生じた訴訟費用は同法第一八一条第一項但書により被告人羽山には負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 尾坂貞治 赤木薫 小島建彦)

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